6月19日(水)から「毛利清二の世界 映画とテレビドラマを彩る刺青」展の第2期が始まりました。本展覧会は、50年以上にわたり映画やテレビドラマで俳優の身体に刺青を描いてきた刺青絵師・毛利清二氏の仕事を振り返るもので、京都市中京区にあるおもちゃ映画ミュージアムにて5月1日(水)から7月28日(日)まで開催されています。会期は2期制で、第1期では東映が任侠・やくざ映画路線を突き進めた60・70年代の作品が、現在開催中の第2期では80年代以降の作品が対象となっています。
任侠映画、実録やくざ映画の時代を経て、80年代以降の東映はオルタナティヴな「任侠映画」の世界を切り開いていくことになります。その先陣を切った作品が1982年6月に公開された『鬼龍院花子の生涯』(五社英雄監督)でした。宮尾登美子による同名小説をもとにした本作では、土佐の侠客・鬼龍院政五郎(仲代達矢)と彼を取り巻く女性たちの波乱に満ちた人生が描かれています。物語は政五郎の養女となった松恵(夏目雅子)によって語られるのですが、女性が語り手となるのはそれまで数多くの任侠・やくざ映画を生み出してきた東映作品においても珍しい試みでした。「緋牡丹博徒」シリーズ(1968-1972年)のように男性が演じてきたキャラクターを女性が演じるのではなく、「侠客の隣に生きた女性」に焦点を当てていることも本作の新しさだといえるでしょう。その意味で『鬼龍院花子の生涯』には、のちに始まる「極道の妻たち」シリーズの萌芽がみられます。
毛利氏による刺青は、こうした新たな任侠映画の世界にも彩りを与えてきました。『鬼龍院花子の生涯』で描かれた赤を基調とする鮮やかな刺青ーー仲代達矢さんへの「龍王太郎」(背中)と「牡丹」(腕)、夏木マリさんへの「豆手と手ぬぐい」、岩下志麻さんへの「龍と牡丹」ーーは、五社監督の得意とする極彩色の画面作りと見事に一致するものでした。台本には、岩下志麻さん演じる政五郎の妻・歌への刺青に関する記載はありませんが、毛利氏は岩下さんの太腿に、政五郎と揃いのモチーフである「龍と牡丹」の刺青を描いています。ただ一度だけその刺青が画面上にあらわれるのは、病床で夫との思い出を振り返る回想シーンのはじめに歌が自身の刺青を撫でるときで、そこでは刺青が歌と政五郎の見えない絆を可視化しているといえるでしょう。
「毛利清二の世界展」(第2期)は、こうした『鬼龍院花子の生涯』の展示から始まります。奇しくもドラマ版『鬼龍院花子の生涯』(2010年)で刺青絵師を引退するまでに制作された、大小さまざまな刺青下絵や関連資料が展示されていますので、ぜひ会場でご覧ください。
映画図書室では、毛利氏が刺青を担当した作品に関する台本やスチル写真、ポスター等を数多く所蔵しています。展覧会と合わせてぜひご利用ください。
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(原田麻衣)