[コラム]世界の映画アーカイブ「シネマテーク・フランセーズ」

映画村・映画図書室は東映太秦映画村、映像産業振興機構(VIPO)、京都大学大学院人間・環境学研究科による産官学提携事業の成果として2020年7月にオープンしました。その関係で、現在、映画研究を専門とする京都大学の院生7名が図書室スタッフとして資料の収集・保存に携わっています。

映画図書室では現在、台本やスチール写真、プレスシートなど40万点以上の資料を所蔵しています。それらはいわゆる「ノンフィルム資料」と呼ばれるもので、その名のとおりフィルム以外の映画資料を指します。フィルムや作品データが「実際どのような作品になったか」を示すものならば、例えばたいてい何度も改訂がなされる脚本資料は「その時どのように作ろうとしたか」を示すものであり、また、プレスシートなどの宣伝印刷物は「その時どのように売り出そうとしたか」の記録であると言えます。映像では見えない作り手の意図や当時の状況が垣間見える映画資料は、作品理解に新たな視点を与えうるものであり、映画研究をするうえでも極めて貴重な資料です。

こうした映画資料は、国内であれば国立映画アーカイブをはじめ、松竹大谷図書館や早稲田大学演劇博物館など全国各地の施設で保存されており、もちろん国外にも数多くの映画アーカイブが存在します。そして図書室で勤務する院生スタッフはそれぞれの研究テーマに合わせて、さまざまなアーカイブで調査をする機会があります。そこで、映画村・映画図書室ニューズレターでは新たに「世界の映画アーカイブ」というコラムを立ち上げ、国内外のアーカイブについて発信をしていくことにしました。どこにどのようなアーカイブがあり、どのような取り組みがなされているのか。そこにある資料はどのように活用されるのか。このコラムが映画アーカイブを身近に感じられる場になると嬉しいです。

さて、「世界の映画アーカイブ」第一弾はフランスにあるシネマテーク・フランセーズについてです。シネマテーク・フランセーズは、1936年にフランスのパリで設立された映画アーカイブで、4度の移転を経て現在はパリ12区ベルシー通り51番に位置しています。フィルムや画像資料、書籍に記録文書、撮影機器から衣装まで数多くの資料が所蔵されており、コレクションの規模については世界最大級だと言えるでしょう。館内施設としては、映画を上映するホールのほか、後述する映画図書館、常設展と特別展が開催されている展示会場、映画書籍に特化した本屋が同居しており、まさに大きな映画博物館です。シネマテークでは常にいくつかの特集上映が行われており、例えば昨年開催された清水宏のレトロスペクティブでは50本もの清水作品が上映されました。現在は、ヌーヴェル・ヴァーグの時代を代表する映画監督の一人、アニエス・ヴァルダの特別展および特集上映が行われています。

特別展「Viva Varda!」2023年10月11日から2024年1月28日まで

特集上映のオープニングイベントではヴァルダ作品にちなんだ演奏会が開催されました

こうした特集上映の他にも、休館日(火曜日)以外は毎日複数の映画作品が上映されており、なかには3歳から6歳まで、6歳から12歳まで、というふうに年齢別に設定された上映イベントもあります。シネマテーク設立当初から大きな目的として掲げられていた「教育」が、映画上映の観点でも実践されています。

シネマテークには、もともと別組織であった「映画文献資料図書館(BiFi)」が映画図書館として入っており、完全予約制の「研究者専用ルーム」では実際に使用されていた脚本資料やプロダクション資料などを閲覧することができます。

所蔵されている膨大な資料は、関連人物名や関連作品名のみならず、特質ごとに詳細に分類されています。それらの資料はオンラインデータベースで検索が可能であり、閲覧申請の際には該当の資料番号を申請フォームに入力する仕組みです。

このデータベースは所蔵資料や作品のデータ(公開日や製作スタッフ、撮影場所など)を調べるだけでなく、任意の作品に関する記事を探すことにも役立ちます。館内以外からアクセスした場合は記事の書誌情報が、館内に設置されているパソコンから検索した場合には、記事の内容までオンライン上で確認できます。いかに一つ一つの作品がきちんとデータベース化されているかがよくわかる事例です。

他にも、図書館内には「画像資料室」と呼ばれる場所があり、そこではスチル写真やフィルムの断片(マウントフィルムやコンタクトプリント)などの画像資料を見ることができます。また、「ビデオライブラリー」では1万7千本もの映画が視聴可能となっています。こうした充実した状況から、図書館には連日多くの利用者が訪れています。

シネマテークには映画アーカイブに対する伝統と実績があり、資料の分類方法や保存方法に関して、細かい部分でも参考になるポイントが多々あります。映画図書室でも、貴重な資料をできる限りよい状態で守り、必要な人がスムーズにアクセスできるような状況を作っていきたいと考えています。

シネマテーク1Fには野口久光氏による『大人は判ってくれない』(フランソワ・トリュフォー、1959年)の特大ポスターが展示されています

映画図書室所蔵の資料は、どなたでも申請をしていただければ閲覧が可能です。資料の閲覧を希望される方は、下記のフォームより事前申請をお願いいたします。

(原田麻衣)