『燃えよ剣』の幻の台本
映画『燃えよ剣』(原田眞人監督、岡田准一主演)が本日10月15日(金)から公開されます。
東映太秦映画村・映画図書室は『燃えよ剣』の撮影稿を所蔵しています。
映画図書室では2021年12月1日(水)より台本の閲覧を解禁します。
閲覧を希望される方は、下記のフォームより閲覧申請をお願いします。
さて、司馬遼太郎の同名小説を原作とする映画化はこれで2回目で、さかのぼること半世紀以上前の1966年に松竹が『燃えよ剣』(市村泰一監督、栗塚旭主演)を製作・公開しています。
映画図書室はこの1966年版の台本も所蔵しております。こちらも合わせてご覧いただければ幸いです。
さらに、映画図書室にはもう一冊の『燃えよ剣』の台本があります。
台本作成日は昭和39(1964)年7月13日となっています。
表紙には「東映株式会社 京都作品」の文字が見えますが、実際に東映が製作した『燃えよ剣』は存在しません。
つまりこの台本は未製作に終わった幻の『燃えよ剣』の台本なのです。
台本の表紙には、鉛筆書きで「未映画化(代りに「幕末残酷物語」製作か)」と記されています。
加藤泰が監督した『幕末残酷物語』は東映京都撮影所で撮影され、1964年に公開されました。
東映版『燃えよ剣』の台本を見ると、監督・脚本に加藤泰の名前がクレジットされています。表紙の鉛筆書きが正しければ、当初は加藤泰が『燃えよ剣』を監督する構想があったものの、何らかの理由で企画が頓挫し、代わりに『幕末残酷物語』を監督したということになります(『幕末残酷物語』も新選組を題材とした映画でした)。
その後、『燃えよ剣』は1966年に松竹で映画化されるわけですが、脚本には森崎東、長谷部利朗とともに加藤泰の名前がクレジットされています。
この事実は東映で映画化できなかった『燃えよ剣』の脚本が、松竹版のベースになっていたことをうかがわせます。
実際に東映版と松竹版の台本を見比べてみると、冒頭部分から池田屋事件の顛末まで、基本的な展開が共通していることがわかります。
興味をお持ちになった方は、ぜひご自分の目で二つの台本をお確かめください(松竹版、東映版の台本は12月1日以前から閲覧可能です)。
今回公開された新しい『燃えよ剣』は、池田屋事件のあと、土方歳三が五稜郭の戦いに参戦するまでを描いており、池田屋事件をラストに置いている東映版、松竹版とは異なる構成となっています。
台本を比較することで、それぞれの作品が重視しているテーマの違いが浮かび上がってくるかもしれません。
(伊藤弘了)